2020年05月30日

行政書士は発信者情報開示請求に関与することができるか

昨今のWeb上での誹謗中傷による被害の顕在化から、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求制度に注目が集まっており、今回の記事の執筆に至りました。

結論から述べると難しいといえます。

1.法律の内容

 プロバイダ責任制限法における発信者情報開示請求の概要については、
弁護士ドットコムの記事
https://www.bengo4.com/c_23/n_11269/
総務省「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の資料
https://www.soumu.go.jp/main_content/000685999.pdf
がわかりやすいため、再度解説することはしませんが、
本記事のテーマに即して言えば

(1)権利侵害が明白である場合、特定電気通信役務提供者(プロバイダ等)は開示義務を負う。
よって、請求権者(被害者)から特定電気通信役務提供者(プロバイダ等)へ直接開示請求ができ、特定電気通信役務提供者はこれに応ずる義務を負う。

(2)ただし、現実には特定電気通信役務提供者(プロバイダ等)が権利侵害の明白性の判断を避けるため、仮処分および訴訟により請求し、権利侵害の明白性について裁判所の判断を得ることが必要となっている

という点がポイントといえましょう。


2.関与の余地

 上述のとおり、一応ISP(インターネットサービスプロバイダ)に対する直接の開示請求が制度化されており(任意開示)、当該請求書類の作成は行政書士業務に含まれうると考えられます。

 しかしながら、実際にはプロバイダが任意開示に応じる事例はごく稀であることから、Web上の不法行為に対する有効な解決策とはいえないでしょう。仮にプロバイダに対する開示請求書作成の依頼をいただいたとしても、まずは上記のような事情を説明の上お断りするのが職業倫理に即した対応と思われます。



3.制度改正の方向性と行政書士

 昨今の社会情勢の変化(正確には認識の高揚)を踏まえて、総務省や与党では発信者情報開示請求制度を含めた対策を検討しており*、その結果として行政書士が発信者情報開示請求に関与するものとなる可能性はあるでしょうか。

 総務省における現在の検討の要点は(1)開示対象の拡大(2)任意開示の促進(3)訴訟手続きの簡素化、のようであり、任意開示が実務上有効な手段となるのであればその余地はないとはいえないでしょう。

 ただし、任意開示の促進については、特に司法機関以外が権利侵害の有無を判断することとなり得る点に対する批判も強く、個人的にも理由のあるものと考えます。そうすると、仮に制度改正があったとしても行政書士が関与しうる可能性は低いといえましょう。


参考文献
 電子商取引問題研究会『発信者情報開示請求の手引』民事法務研究会、2016

脚注
https://www.sankei.com/affairs/news/200526/afr2005260012-n1.html
 https://www.cnn.co.jp/showbiz/35154416.html
posted by KINO Ryosuke at 20:18| Comment(0) | その他法律

2020年05月24日

カルテと開示請求 第3回 カルテ開示の法的構成(2)顛末報告義務に基づく開示

 前回の「(1)個人情報保護法に基づく開示」に続いて、今回は「(2)顛末報告義務に基づく開示」について扱います。

1.診療契約と顛末報告義務

 一般にわたしたちが「診察」や「診療」と呼んでいる医療機関での医師による治療は、法律上は「診療契約」となりますが、「診療契約」は「準委任契約」という契約類型のひとつとなります。

 準委任契約は、委任者が受任者に一定の行為の実行を委任する、という形の契約です。
 患者が委任者、医師が受任者であり、患者(委任者)が医師(受任者)に診療という行為の提供を求める、という関係となります。

 そして、準委任契約の受任者(診療契約では医師)には、委任者(診療契約では患者)に委任された行為の結果につき報告する義務(=顛末報告義務)があるというのが通説です。他人に仕事を依頼した際、通常その結果について報告を求めるでしょうが、これを法定したものと考えれば理解しやすいでしょう。


2.顛末報告義務によりカルテの開示を求めうる場合

 ただし、顛末報告義務の実行は、必ずカルテの開示に依るべき、とされているわけではありません。その方法は、個別の事情に応じて適切なものが選択されるべき、とされており、カルテの開示から口頭での説明まで幅があります。

 そのため、一般に医療ミス(医療過誤)があったような場合や、既に患者と医師の関係が破壊されているような場合はカルテの開示まで認められる場合が多いでしょうし、まだ治療が継続しており、口頭でも充分に説明が可能であるような場合はカルテ開示は認められない可能性が高くなります。


3.本人以外からのカルテ開示

 また、個人情報保護法上の開示請求権者(開示の請求をできる者)は「本人」に限られていることから、例えば亡くなった家族のカルテの開示を個人情報保護法に基づいて行うことはできません。
 しかし、学説においては、患者の家族は本人と医療者(医師等)の診療契約の付随的義務として顛末報告義務に基づく説明を受ける権利を有するとの見解が存在し、厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」においても遺族への開示を原則として応ずべきとしていることから、顛末報告義務に基づいてカルテの開示を請求できる場合があります。

次回は「(3)証拠保全手続きによる開示」を扱います。
posted by KINO Ryosuke at 23:00| Comment(0) | 個人情報

2020年05月18日

カルテと開示請求 第2回 カルテ開示の法的構成(1)個人情報保護法等に基づく開示

 第1回ではカルテとその開示について概説しましたが、第2回からは法律上どのような根拠によりカルテの開示を求めることができるかについて詳しく解説します。
 今回は(1)個人情報保護法等に基づく開示、を扱います。


1.個人情報保護法に基づく開示請求の概要

 第1回でも述べたとおり、カルテは個人情報保護法2条6項の「個人データ」に、カルテを保有する医療機関は2条5項の「個人情報取扱事業者」に該当します。そして、個人情報取扱事業者は保有する個人データにつき、本人からの開示請求に応ずる義務を有します。

 そのため、個人情報保護法28条の規定に基づき、開示請求を行うことができます。ただし、開示請求に関して個人情報取扱事業者は手続きを定めることができ、手続きが定められている場合はその手続きに従う必要があります。

 例えば、「開示請求を行うにあたっては医療機関所定の様式に記入することにより行うこと」との手続きが定められていた場合、任意の様式による請求は拒み得るものと考えられます。
 しかし、手続きを定めるにあたっては「本人に過重な負担を課するものとならないよう配慮」する義務があるため、様式の配布を医療機関の窓口のみにて行い、遠隔地に居住する開示請求者に対し医療機関への来訪を求めるようなことは認められないといえましょう(個人情報保護法32条4項)。


2.開示の原則と開示請求を拒みうる場合

 個人情報保護法に基づく開示請求が行われた場合、個人情報取扱事業者(ここでは医療機関)は原則として応じる義務があります。
 
 医療機関が開示請求を拒否できるのは、個人情報保護法28条2項の
一 本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
二 当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
三 他の法令に違反することとなる場合
の1〜3号に該当する場合のみです。


3.ガイドライン・通達の規定

 また、個人情報保護法の運用に当たっては、法律の規定のみならずガイドラインや通達にも準拠することとなります。

 医療分野においては、個人情報保護委員会および厚生労働省により作成された「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱のためのガイダンス」や厚生労働省による通達である「診療情報の提供等に関する指針」「診療情報の提供等に関する指針について(周知)」が存在し、例えば、
・理由の照会が不適当であること(「ガイダンス」)
・立ち会いを必須とすることが不適当であること(「指針について」)
などが盛り込まれています。

 なお、厳密には、国の行政機関には行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(行政機関個人情報保護法)、独立行政法人等は独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(独立行政法人等個人情報保護法)が適用されます。民間分野に適用される個人情報保護法と、行政機関・独立行政法人等に適用される行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法には開示対象となる情報や開示の拒絶理由について若干の相違があるのですが、カルテ開示を求める上では結果に大きな差を生むことはないものと考えられます。

 次回は「(2)顛末報告義務に基づく開示」を取り扱います。


参考資料等

厚生労働省・個人情報保護委員会「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱のためのガイダンス」「『医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱のためのガイダンス』に関するQ&A(事例集)」
 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines/#iryokanren
厚生労働省「診療情報の提供に関する指針」
 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3403&dataType=1&pageNo=1
厚生労働省「診療情報の提供等に関する指針について(周知)」
 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3511&dataType=1&pageNo=1
posted by KINO Ryosuke at 00:16| Comment(0) | 個人情報

2020年05月13日

タウンプラスを送付した話

 行政書士事務所の運営で、現在進行形で苦慮しているのが営業です。

 わたし個人の性格として、最終的にある商品やサービスの購入・利用を決定するのは消費者・利用者本人であるという思いから、なかなか「営業」という営為自体にあまり積極的になることができず、躊躇しがちとなってしまいます(マーケティングの重要性自体は認識しているつもりなのですが…)。

 また、何分顔が広い方ではないので、自身の人脈に頼った営業には限界があり、畢竟何らかの形で広告を打つこととなります。

 そこで昨年、日本郵便のサービスであるタウンプラスを利用し広告の送付を行いました。

 タウンプラス自体は、現在マスクの配布に使用されたことから一躍知名度が上昇したためご存じの方も多いかもしれませんが、宛名ではなく地域を指定し、その地域のすべての住戸に郵便を送付できるサービスです。

 正直関心のない広告であると単に鬱陶しいというのは、わたし自身受け取った際の経験からよく理解はしていたため、心苦しい側面がないでもなかったのですが、たとえ少数であっても行政書士サービスを必要とされている方へ届けばと送付しました。

 差出通数は約900通、地域は事務所近隣の品川区の一部としました。


 しかし、送付後特に反響はありませんでした。

 反省点として、送付通数自体が少ない点、デザイン性に欠けていた点、具体的な情報が不足(例えば、直近の相続法改正について解説し広告としてではなくハンドブックとして保存していただけるような形態にする、といったような)していた点、など多々あるかとは思います。
 特に送付通数の絶対的な少なさは重要な要因かと思いますが、予算との兼ね合いもあり有効であると判明していてもなかなか直ちに対応することが難しい点ではあります。

 ただいずれにせよ、現在のところ具体的な反響はありませんが、地域の皆様の認知度が少しでも高まっていれば、と思っています。
posted by KINO Ryosuke at 23:48| Comment(0) | 事務所経営

2020年05月11日

カルテと開示請求 第1回 カルテの性質

本日より「カルテと開示請求」シリーズを連続投稿させていただきます。
同シリーズでは、カルテ開示(診療録開示)の概要や方法、留意点について解説してゆきたいと思います。

第1回は「カルテの性質」として、カルテ(診療録)の位置づけについて言及してまいります。

(1)カルテとは


 「カルテ」とは、一般に医師が診療に際して作成する診療録のことをいいます。
 また、医師の記載する診療録のほか、検査記録や手術記録、看護記録、処方箋等を含む患者の治療に関して作成された文書を総称して「診療記録」(または「診療記録等」)といいます。


(2)カルテの医療上の位置づけ


 以前ではカルテは医師の備忘録にすぎないとされ、また治療の経過や病状も「知らしむべからず」といった意識のもと患者へは知らせないといった認識が一般的であり、カルテは開示されない、さらには積極的に開示すべきでないとされることが一般的でした。

 しかしながら、現代では患者と専門職である医師は対等なパートナーシップのもと協働して治療にあたる存在との理念が普及してきたことから、少なくとも総論としては「カルテは患者と医師の共有資産である」との認識となっているようです。日本医師会においても、カルテ開示に関するガイドラインを定め、原則としてカルテは開示すべきものとしています(日本医師会 診療録の提供に関する指針:http://www.med.or.jp/doctor/rinri/i_rinri/000318.html)。


(3)カルテの法律上の位置づけ


@ 医師法上の地位
 医師法においては、医師の義務として、
 1)診療を行った際の診療録(=カルテ)への記載義務
 2)5年間の保管義務※
 が定められています。
 ※病院または診療所に勤務する医師のした診療にかかる診療録については、管理者が保管義務を負います。

A 個人情報保護法上の地位
 カルテは、個人情報保護法上の個人情報および個人データに、医療機関は個人情報取扱事業者に該当します。そして、個人情報取扱事業者は、本人の請求により個人情報を開示する義務を負いますので、本人にカルテを開示する義務があるといえます。
 個人情報保護法上の位置づけについては、次回以降の記事で詳しく解説します。

B 診療契約上の地位
 いわゆる医師による診療は、法的には「準委任契約である医療契約に基づく役務の提供」とされていますが、準委任契約の性質として委任者(医療契約の場合は患者)への顛末報告義務が生じます。
 そして、顛末報告義務の実施として、カルテ開示を行うべき場合があるとされています。ただし、顛末報告は診療の状況や患者と医師の関係性等に鑑み適切な方法が選択されるべきで、常にカルテ開示が要求されるものではない、というのが通説です。
 診療契約上の地位についても、次回以降の記事で詳しく解説します。


(4)結論


 医療上の観点からも、法律上の観点からも、カルテ(診療録)は原則として開示すべきといえます。
 次項以降、それぞれの論点について詳しく解説してゆきます。


参考文献


加藤良夫『実務医事法講義』民事法務研究会、2005
高橋譲編『医療訴訟の実務』商事法務、2013

次回→カルテと開示請求 第2回 カルテ開示の法的構成(1)個人情報保護法等に基づく開示
posted by KINO Ryosuke at 23:21| Comment(0) | 個人情報