2020年06月16日

カルテと開示請求 第7回 カルテ開示にかかる手数料 後編下 開示手数料を巡る昨今の動向(2)

舞台裏の話となりますが、本来素案では後編上の内容のみにて終える予定でした。しかしながら、本稿執筆にあたり再調査した結果、存外に進展が見られたので急遽記事を記すこととしまします。

(1)改善の兆し〜厚労省通達後手数料が大幅に低額化した事例

 前回述べたとおり一般に民間病院の手数料は高額ですが、近年では厚労省通達を受けてか改善の兆しも見られています。

 例えば、厚生労働省による調査時点(2017年9月25日時点)では

  開示請求手数料:5400円
  開示実施手数料:1枚当たり54円(白黒)、108円(カラー)

であった杏林大学医学部附属病院(https://www.kyorin-u.ac.jp/hospital/introduction/privacy_policy/)は、2019年10月に開示規定を改正し、

  開示請求手数料:3850円
  開示実施手数料:1枚当たり11円(白黒)、55円(カラー)

へと変更されました。

 開示請求手数料3,850円の妥当性には疑義がありますし、一律の手数料を定めることの不当性を指摘した厚労省通達への応答としては不十分ともいえますが、開示実施手数料が合理的な額となったことは評価されるべきでしょう。

(2)一応の改善が見られた事例

 また、前回挙げた東京医科大学についても、調査時点では一律開示請求手数料(5,400円)を徴収していましたが、2019年10月の規程改定で上述のとおり診療継続中の開示については開示請求手数料を無料としました。
 開示実施手数料が高額であるだけに、十分ではないと思われますが、改善の端緒とはいえるでしょう。

(3)依然として改善の見られない例

 一方で、(ちゃっかりと消費税増税分の値上げはしつつ)厚労省通達の趣旨に即した改善がなされていない病院も散見されます。

 具体的に適示することは一応避けますが、そのような病院の規程には手数料以外にも予約を必須としたり、窓口での開示請求書記入を義務づけるなど過重な負担を課していると思われる手続きが存在する等、個人情報保護法の本旨を(そしてインフォームドコンセントの理念を)軽視する条項がみられます。

 今後の行政上の措置や自浄作用により、適正な診療録の開示がなされることを願ってやみません。
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カルテと開示請求 第6回 カルテ開示にかかる手数料 後編(上) 民間病院の場合・診療録開示を巡る昨今の動向(1)



前回に続き、カルテ開示に要する手数料につき詳細に解説してゆきます。今回は民間病院における開示手数料および開示手数料を巡る昨今の動向について述べます。

(1)民間病院の開示手数料

 民間病院の手数料は、ガイドラインに具体的な金額が明記されていないことも要因となり多様ですが、概して高額です。

 例えば、
 ・東京女子医科大学病院(http://www.twmu.ac.jp/info-twmu/kojin-jyohou6.html
  開示請求手数料: 5500円
  開示実施手数料:1枚につき55円(白黒)または110円(カラー)

 ・慶應義塾大学病院(http://www.hosp.keio.ac.jp/about/yakuwari/gaikyo/kaiji.html
  開示請求手数料:5500円
  開示実施手数料:1枚につき55円(白黒)

 ・東京医科大学附属病院https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/info/kaiji.html
  開示請求手数料:通常診療時無料、その他の場合5500円
  開示実施手数料:1枚につき55円(白黒)または110円(カラー)
 などです(注1)。

 特に、開示の可否に関わらず(不開示となった場合にも返金されず、開示実施手数料にも充当されない)一律の開示手数料を請求したり、医師の立ち会いを必須としたりする事例も見られます。

 民間病院の手数料の全体像は、後述する厚生労働省の調査でも確認することができます。


(2)厚生労働省通達「診療情報の提供等に関する指針について(周知)」(平成30年7月20日)(医政医発0720第2号)

 民間医療機関の開示手数料の妥当性については市民団体からも疑念が呈されていたようで、厚生労働省による調査が実施され、その結果を踏まえ通達が出されています。

 通達では、
 (1)一律の「開示手数料」を定めることは不適切となる場合があること
 (2)医師の立ち会いを必須とすることは患者の診療記録を閲覧する権利を不当に制限する恐れがあるため、不適切であること
 が指摘されています。

 ただしここでも具体的な金額については言及されていないため、依然として「開示実施手数料」「複写料」として高額の手数料が請求されるケースはなくならないかもしれません。


(3)所感

 個人的には、印刷技術が一般市民に普及していないような時代であればともかく、コンビニにて10円でコピー機が利用できるような現在、複写費用という名目で1枚当たり20円から30円(あるいはそれ以上)の金額を請求するのは不当であると思います。
 
 そもそも、治療は患者と医療者の対等なパートナーシップに基づく共同作業であり、その共同作業の成果物である診療録は双方の共有資産であるとの理念に照らせば、実費の徴収は許容されるとしても、その余は特段の負担なく開示すべきです。
 
 開示請求に殊更高額の手数料を設定したり、殊更煩雑な手続きを設定していることは、病院管理者の診療録開示による収益確保の意図や、「知らしむべからず」との治療観が現れているといえるでしょう。

次回は「後編(下) 診療録開示を巡る昨今の動向(2)」としてより最近の状況につき述べてゆきます。

参考

「診療情報の提供等に関する指針について(周知)」
 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3511&dataType=1&pageNo=1


注1
 この事例のみですと、恣意的的に高額な民間病院を選択したとも捉えられますが、厚生労働省通達の元となった調査からも、傾向として民間病院の開示手数料が高額であることは明白です。
 厚生労働省の調査では全87病院が調査対象となり、開示に要する費用の分布は、999円以下が67%(58件)、2,000円〜2,999円が2%(2件)、3,000円〜3,999円が15%(13件)、5,000円以上が16%(14件)でした(括弧内は推測される実数値)。
 また、民間病院30件のうち、公開情報から開示手数料が判明した病院は16件ですが、9件が5000円以上、6件が3,000円〜3,999円でした。
 無論情報が判明していない民間病院が著しく低額である可能性もありますが、特に国立大学法人は独立行政法人個人情報保護法の規程に基づいた手数料体系であることにも鑑みると、民間病院の開示手数料は高額と言って良いでしょう。

posted by KINO Ryosuke at 08:00| Comment(0) | 個人情報