2020年07月08日

カルテと開示請求 10回 判例の系譜(3)顛末報告義務に基づく請求2

 前回に続き、若干専門的になりますが、診療録開示(カルテ開示)にかかる判例を紹介します。
 今回も、診療契約上の顛末報告義務に基づく診療録開示請求に関する判例の系譜をみてゆきます。

(1)顛末報告義務に基づき開示請求をしうるとされた事例

・大阪地判平成20年2月21日判決(平成16年(ワ)第8288号損害賠償請求事件)-判例タイムズ1318号173頁

 癌転移の疑いに基づく切除術後の放射線治療により下顎骨に放射線性骨髄炎を発症し、下顎骨再建術を試みるも奏功せず身体障害1級と判定される後遺障害を負った患者(原告)が、顛末報告義務に基づく診療録の開示義務違反による損害賠償請求を求めた事件です。
 
 裁判所は、原告に重篤な後遺障害が残ったとの特段事情の元においては、診療録の開示より顛末報告義務を履行する必要があるとの判断を示し、原告の請求を認めました。

 ただし、あくまで診療契約における顛末報告義務は個別の事情に応じて適切な方法によってなされるべきとの判断は維持されており、後遺障害等の特段事情の認められない場合や、顛末報告義務と独立した一般的な診療録の開示義務を認めたものではありません。


(2)顛末報告義務に基づき開示請求をしうるとされた事例

・東京地判平成23年1月27日判決(平成21年(ワ)第44833号)-判例タイムズ 1367号212頁

 歯科医院にてインプラント治療を受けた原告が、歯科医院の開設者である原告に診療経過の説明および診療録の開示を求めたものの、これを拒否したとして診療契約の債務不履行または不法行為に基づき損害賠償を請求した事件です。

 裁判所は「診療契約に伴う付随義務あるいは診療を実施する医師として負担する信義則上の義務として、個人情報開示請求書の提出の有無にかかわらず、速やかにカルテの開示をすべき義務を負っていたというべき」として原告の主張を容認しました。

 この判例の画期性は、治療経過や後遺障害にかかる特段事情に関わらず、特段の支障がない限り診療契約に基づく義務または信義則上の義務として診療録を開示すべきとした点です。


(3)判例の推移

 これまで紹介した判例の系譜から、1980年代には極めて否定的であった診療録の開示につき、特段事情が存在する場合の顛末報告義務の履行としての開示を経て、現在では診療契約に付随する義務と認められるまでになりつつあることがうかがえるかと思います。

 個人(患者)の自己決定権の尊重や一般的な権利擁護の観点からも、この潮流が衰退することはないといえるでしょう。
posted by KINO Ryosuke at 08:00| Comment(0) | 個人情報