2020年09月02日

プロバイダ責任制限法に基づく省令の改正について

 2020年8月31日、プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法)に基づく省令(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令)が改正され、同日公布・施行されました(https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2008/31/news141.html)。
 以前の記事(行政書士は発信者情報開示請求に関与することができるか)にて発信者情報開示請求に触れたこともあることから、今回の改正について簡単に解説してゆきます。


(1)改正の内容

 改正の内容自体は至ってシンプルであり、開示請求の対象に電話番号が追加されたものです(第三号)。なお、電話番号が第三号に挿入されたことによる、第四号以下の繰り下げとの技術的な修正が併せてなされています。


(2)改正の要点

 改正された条文自体はシンプルですが、実務に与える影響は多大であると思われます。端的に言えば、これまで発信者の特定にはコンテンツプロバイダおよびアクセスプロバイダへの二段階の開示請求が必要であり、多くの場合それぞれに訴訟手続が必要であったところ、コンテンツプロバイダのみへの開示請求と電話会社への23条照会にて発信者が特定しうる可能性が高まることとなりました。

 すなわち、これまではコンテンツプロバイダへの発信者情報開示請求にてIPアドレスを取得し、そのIPアドレスに基づきアクセスプロバイダへ2回目の発信者情報開示請求を行って個人の特定に繋げる必要がありました。前述の通り2回の開示請求いずれにも訴訟手続が必要となる事例が多いため、個人の特定には時間を要し、1回目の開示請求の途上でアクセスプロバイダのログが削除されてしまうような自体も見られました。

 今回の改正により、コンテンツプロバイダが電話番号を保有(インターネットサービス利用にかかるアカウント作成時に住所氏名までは求められずとも電話番号の登録を行う事例は多いでしょう)していればコンテンツプロバイダより電話番号を取得し、電話会社への弁護士法23条による照会を行うことで、1回の訴訟手続にて個人の特定を行うことが可能となります。


(3)事例による解説

事例)大手動画投稿サイトに権利を侵害する書き込みがなされた場合
<省令改正以前の発信者の特定>
1.大手動画投稿サイトのサーバー管理者(コンテンツプロバイダ)へ発信者情報開示請求を行う。
 ※多くの場合、訴訟手続を経る必要があり時間を要する。
 ※通常書き込みには住所氏名等の登録までは必要でないため、IPアクセス元のIPアドレス等、直接個人を特定するまでには至らない情報のみが開示されることとなる

 ↓
2.1にて開示されたIPアドレスに基づき、書き込みの際のインターネット接続に用いられたプロバイダ(アクセスプロバイダ)へ発信者情報開示請求を行う。
 ※多くの場合、訴訟手続を経る必要があり時間を要する。
 ※アクセスプロバイダは料金収納のために住所氏名等を把握していることから、個人の特定につながる。

 ↓
3.特定された個人情報に基づき、損害賠償請求等を行う。

<省令改正後の発信者の特定>
1.大手動画投稿サイトのサーバー管理者(コンテンツプロバイダ)へ発信者情報開示請求を行う。
 ※多くの場合、訴訟手続を経る必要があり時間を要する。
 ※アカウント作成時に電話場号が登録されていれば、開示対象となる。
 ↓
2.1にて開示された電話番号に基づき、電話会社へ弁護士法23条による照会を行う。
 ※訴訟手続ではなく、弁護士会によるが多くの場合1ヶ月程度で回答が得られる。
 ↓
3.特定された個人情報に基づき、損害賠償請求等を行う。

(4)終わりに
 今般の改正は昨今のWeb空間における誹謗中傷への関心の高まりを受けたものと思われ、併せて「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」も公表されています。そして、電話番号の開示対象への追加は誹謗中傷への対応との観点から好ましいものと言えましょう。
 また、個人的には極力行政的な規制よりも民事的な権利行使機会の確保による対策のなされることが望ましいと考えておりますので、今回の改正を肯定的に捉えるとともに、継続する法整備等についても同様の指向にてなされるとともに、権利行使を厭わない社会的機運が醸成されることを願っています。


参考資料

 省令
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000704454.pdf
 発信者情報開示の在り方に関する研究会(省令改正等の検討過程)
 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/information_disclosure/index.html
 「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」の公表
 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/information_disclosure/02kiban18_02000105.html
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2020年05月30日

行政書士は発信者情報開示請求に関与することができるか

昨今のWeb上での誹謗中傷による被害の顕在化から、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求制度に注目が集まっており、今回の記事の執筆に至りました。

結論から述べると難しいといえます。

1.法律の内容

 プロバイダ責任制限法における発信者情報開示請求の概要については、
弁護士ドットコムの記事
https://www.bengo4.com/c_23/n_11269/
総務省「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の資料
https://www.soumu.go.jp/main_content/000685999.pdf
がわかりやすいため、再度解説することはしませんが、
本記事のテーマに即して言えば

(1)権利侵害が明白である場合、特定電気通信役務提供者(プロバイダ等)は開示義務を負う。
よって、請求権者(被害者)から特定電気通信役務提供者(プロバイダ等)へ直接開示請求ができ、特定電気通信役務提供者はこれに応ずる義務を負う。

(2)ただし、現実には特定電気通信役務提供者(プロバイダ等)が権利侵害の明白性の判断を避けるため、仮処分および訴訟により請求し、権利侵害の明白性について裁判所の判断を得ることが必要となっている

という点がポイントといえましょう。


2.関与の余地

 上述のとおり、一応ISP(インターネットサービスプロバイダ)に対する直接の開示請求が制度化されており(任意開示)、当該請求書類の作成は行政書士業務に含まれうると考えられます。

 しかしながら、実際にはプロバイダが任意開示に応じる事例はごく稀であることから、Web上の不法行為に対する有効な解決策とはいえないでしょう。仮にプロバイダに対する開示請求書作成の依頼をいただいたとしても、まずは上記のような事情を説明の上お断りするのが職業倫理に即した対応と思われます。



3.制度改正の方向性と行政書士

 昨今の社会情勢の変化(正確には認識の高揚)を踏まえて、総務省や与党では発信者情報開示請求制度を含めた対策を検討しており*、その結果として行政書士が発信者情報開示請求に関与するものとなる可能性はあるでしょうか。

 総務省における現在の検討の要点は(1)開示対象の拡大(2)任意開示の促進(3)訴訟手続きの簡素化、のようであり、任意開示が実務上有効な手段となるのであればその余地はないとはいえないでしょう。

 ただし、任意開示の促進については、特に司法機関以外が権利侵害の有無を判断することとなり得る点に対する批判も強く、個人的にも理由のあるものと考えます。そうすると、仮に制度改正があったとしても行政書士が関与しうる可能性は低いといえましょう。


参考文献
 電子商取引問題研究会『発信者情報開示請求の手引』民事法務研究会、2016

脚注
https://www.sankei.com/affairs/news/200526/afr2005260012-n1.html
 https://www.cnn.co.jp/showbiz/35154416.html
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