2020年07月31日

カルテと開示請求 第12回 各論(2) 医師の説明・立ち会いが必須であると言われた場合

 今回は各論の2回目として、カルテ開示に際して医師の説明・立ち会いを必須とすることの是非について解説します。前回同様、過去の記事をお読み下さった方には重複する内容となってしまいますがご容赦下さい。

 結論から言えば、2020年現在では医師の立ち会い・説明を必須とすることは不当と考えられます。
 2018年7月20日の厚生労働省通達「診療情報の提供等に関する指針について(周知)」(医政医発0720第2号)にて、
「医師の立ち会いを必須とすることは、患者が診療記録の開示を受ける機会を不当に制限するおそれがあるため、不適切であること」
 との見解が示されているためです。


 特に、医師の立ち会いを理由として、開示の方法や閲覧の時間を制限したり、立ち会いにかかる人件費相当額を「費用」に含めているような場合は患者の閲覧を受ける権利を制限していると認められるものと思われます。

 無論、カルテの記載内容の確認や医学的事項の理解のために必要であるなら、患者の側から医師の立ち会いを求めることは否定されるべきではないでしょう。しかし、対価を支払い診療録の開示と併せて詳細な解説を受けるか、あるいは医学的事項につき独自の調査等の負担が生じたとしても一旦比較的低廉な支出にて診療録の開示をうけるかの選択は患者に委ねられるべきといえます。


 以下は若干実定法の範囲を超えた私見となりますが、個人情報保護法の理念は個人の自己コントロール権の実現にあり、本来個人(本人)に属する情報の本人による管理を実現するのが開示請求権であり、訂正請求権であるわけです。そうだとすると、個人情報の開示請求に際し、理由を尋ねたり、その他の負担を課したりすることは不当といえるでしょう。

参考

厚生労働省「診療情報の提供に関する指針」
 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3403&dataType=1&pageNo=1
厚生労働省「診療情報の提供等に関する指針について(周知)」
 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3511&dataType=1&pageNo=1
posted by KINO Ryosuke at 09:00| Comment(0) | 個人情報

2020年07月22日

カルテと開示請求 第11回 各論(1)「カルテ開示はやっていない」と告げられた場合

 第11回以降は、各論として具体的な事例を挙げ解説をしてゆきたいと思います。すでにこれまでの記事をお読みいただいた方には自明の内容とはなりますが、事例ベースでの検討としてご容赦下さい。

〜「カルテ開示はやっていない」と告げられた場合〜


 まれに「カルテ開示は実施していない」あるいは「検討する」という医療機関に接することがあります。

 しかしながら、医療機関は個人情報保護法上の個人情報取扱事業者であり、当該個人情報取扱事業者の保有する個人データであるカルテの開示は個人情報保護法上の義務ですので、医療機関の裁量で実施を決定することはできません。
 いうなれば、「うちは有給休暇やっていません」と同様の発言だと捉えてよいでしょう。

 また、2015年の個人情報保護法の改正によって、法28条の開示については請求権であることが明確化されました。開示に応じない場合、民事訴訟にて開示を請求することもできます。

 現実問題としては、直ちに訴訟に訴えることは困難でしょうから、医療機関がカルテ開示を拒む場合、まずは法的義務であること、訴訟上請求できることを説明し、法律家に相談の上回答するよう依頼するのがよいかもしれません。特に、医師や医療機関は医学の専門家ではあっても、法律の専門家ではありませんし、個人情報保護法自体も改正を繰り返していることから、知識に誤りがあってもやむを得ない面がないともいえないでしょう。

 また、上記のような説明を行っても検討すらなされない場合、個人情報保護委員会の設置する個人情報保護相談ダイヤルに相談し、斡旋を依頼するもの手段の一です。

 <個人情報保護相談ダイヤル>
 電話 03-6457-9849
 受付時間 9:30〜17:30(土日祝日及び年末年始を除く)
 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/pipldial/

posted by KINO Ryosuke at 07:00| Comment(0) | 個人情報

2020年07月08日

カルテと開示請求 10回 判例の系譜(3)顛末報告義務に基づく請求2

 前回に続き、若干専門的になりますが、診療録開示(カルテ開示)にかかる判例を紹介します。
 今回も、診療契約上の顛末報告義務に基づく診療録開示請求に関する判例の系譜をみてゆきます。

(1)顛末報告義務に基づき開示請求をしうるとされた事例

・大阪地判平成20年2月21日判決(平成16年(ワ)第8288号損害賠償請求事件)-判例タイムズ1318号173頁

 癌転移の疑いに基づく切除術後の放射線治療により下顎骨に放射線性骨髄炎を発症し、下顎骨再建術を試みるも奏功せず身体障害1級と判定される後遺障害を負った患者(原告)が、顛末報告義務に基づく診療録の開示義務違反による損害賠償請求を求めた事件です。
 
 裁判所は、原告に重篤な後遺障害が残ったとの特段事情の元においては、診療録の開示より顛末報告義務を履行する必要があるとの判断を示し、原告の請求を認めました。

 ただし、あくまで診療契約における顛末報告義務は個別の事情に応じて適切な方法によってなされるべきとの判断は維持されており、後遺障害等の特段事情の認められない場合や、顛末報告義務と独立した一般的な診療録の開示義務を認めたものではありません。


(2)顛末報告義務に基づき開示請求をしうるとされた事例

・東京地判平成23年1月27日判決(平成21年(ワ)第44833号)-判例タイムズ 1367号212頁

 歯科医院にてインプラント治療を受けた原告が、歯科医院の開設者である原告に診療経過の説明および診療録の開示を求めたものの、これを拒否したとして診療契約の債務不履行または不法行為に基づき損害賠償を請求した事件です。

 裁判所は「診療契約に伴う付随義務あるいは診療を実施する医師として負担する信義則上の義務として、個人情報開示請求書の提出の有無にかかわらず、速やかにカルテの開示をすべき義務を負っていたというべき」として原告の主張を容認しました。

 この判例の画期性は、治療経過や後遺障害にかかる特段事情に関わらず、特段の支障がない限り診療契約に基づく義務または信義則上の義務として診療録を開示すべきとした点です。


(3)判例の推移

 これまで紹介した判例の系譜から、1980年代には極めて否定的であった診療録の開示につき、特段事情が存在する場合の顛末報告義務の履行としての開示を経て、現在では診療契約に付随する義務と認められるまでになりつつあることがうかがえるかと思います。

 個人(患者)の自己決定権の尊重や一般的な権利擁護の観点からも、この潮流が衰退することはないといえるでしょう。
posted by KINO Ryosuke at 08:00| Comment(0) | 個人情報