2020年06月03日

カルテと開示請求 第4回 カルテ開示の法的構成(3)証拠保全手続きによる開示

 訴訟を予定しているような場合、民事訴訟法上の証拠保全手続きによってカルテの開示を求めることも選択肢の一つです。

(1)個人情報開示請求との比較

 証拠保全手続きを用いるメリットは、
 1)改竄の恐れが少ない
 2)医師、看護師の勤怠表等、「個人情報」に含まれない情報も入手できる
であり、例えば具体的な医療過誤(医療ミス)が疑われるような場合に有効です。

 一方で、証拠保全手続きでは
 1)費用が高額となる(原則として同行させたカメラマンによる撮影となります)
 2)一定の期間を要する
 3)対決的な印象を与える
 といったデメリットがあることから、自身の診療情報の管理を目的とする場合は個人情報の開示請求、医療過誤が疑われる場合は証拠保全と使い分けるとよいでしょう。


(2)手続きの概要

 原則として患者本人が申立人となり、診療録を保有する医療機関の開設者を相手方として行います。

 開設者とは、私立の医療機関であれば医師個人または医療法人、学校法人等の法人、国立病院等の場合は独立行政法人国立病院機構や国立大学法人等となります。

 また申立に際しては証拠保全を必要とする自由を疎明することが必要であり、具体的な改竄、滅失、隠匿、毀損の恐れが必要となりますが、実際には緩やかに運用されているようです。

 申立の後、裁判官面接を経て期日の決定等が行われ、証拠保全の実施に至ります。

参考文献
 浦川道太郎、金井康雄、安原幸彦、宮澤潤編『専門訴訟講座4 医療訴訟』民事法務研究会、2010
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2020年05月30日

行政書士は発信者情報開示請求に関与することができるか

昨今のWeb上での誹謗中傷による被害の顕在化から、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求制度に注目が集まっており、今回の記事の執筆に至りました。

結論から述べると難しいといえます。

1.法律の内容

 プロバイダ責任制限法における発信者情報開示請求の概要については、
弁護士ドットコムの記事
https://www.bengo4.com/c_23/n_11269/
総務省「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の資料
https://www.soumu.go.jp/main_content/000685999.pdf
がわかりやすいため、再度解説することはしませんが、
本記事のテーマに即して言えば

(1)権利侵害が明白である場合、特定電気通信役務提供者(プロバイダ等)は開示義務を負う。
よって、請求権者(被害者)から特定電気通信役務提供者(プロバイダ等)へ直接開示請求ができ、特定電気通信役務提供者はこれに応ずる義務を負う。

(2)ただし、現実には特定電気通信役務提供者(プロバイダ等)が権利侵害の明白性の判断を避けるため、仮処分および訴訟により請求し、権利侵害の明白性について裁判所の判断を得ることが必要となっている

という点がポイントといえましょう。


2.関与の余地

 上述のとおり、一応ISP(インターネットサービスプロバイダ)に対する直接の開示請求が制度化されており(任意開示)、当該請求書類の作成は行政書士業務に含まれうると考えられます。

 しかしながら、実際にはプロバイダが任意開示に応じる事例はごく稀であることから、Web上の不法行為に対する有効な解決策とはいえないでしょう。仮にプロバイダに対する開示請求書作成の依頼をいただいたとしても、まずは上記のような事情を説明の上お断りするのが職業倫理に即した対応と思われます。



3.制度改正の方向性と行政書士

 昨今の社会情勢の変化(正確には認識の高揚)を踏まえて、総務省や与党では発信者情報開示請求制度を含めた対策を検討しており*、その結果として行政書士が発信者情報開示請求に関与するものとなる可能性はあるでしょうか。

 総務省における現在の検討の要点は(1)開示対象の拡大(2)任意開示の促進(3)訴訟手続きの簡素化、のようであり、任意開示が実務上有効な手段となるのであればその余地はないとはいえないでしょう。

 ただし、任意開示の促進については、特に司法機関以外が権利侵害の有無を判断することとなり得る点に対する批判も強く、個人的にも理由のあるものと考えます。そうすると、仮に制度改正があったとしても行政書士が関与しうる可能性は低いといえましょう。


参考文献
 電子商取引問題研究会『発信者情報開示請求の手引』民事法務研究会、2016

脚注
https://www.sankei.com/affairs/news/200526/afr2005260012-n1.html
 https://www.cnn.co.jp/showbiz/35154416.html
posted by KINO Ryosuke at 20:18| Comment(0) | その他法律

2020年05月24日

カルテと開示請求 第3回 カルテ開示の法的構成(2)顛末報告義務に基づく開示

 前回の「(1)個人情報保護法に基づく開示」に続いて、今回は「(2)顛末報告義務に基づく開示」について扱います。

1.診療契約と顛末報告義務

 一般にわたしたちが「診察」や「診療」と呼んでいる医療機関での医師による治療は、法律上は「診療契約」となりますが、「診療契約」は「準委任契約」という契約類型のひとつとなります。

 準委任契約は、委任者が受任者に一定の行為の実行を委任する、という形の契約です。
 患者が委任者、医師が受任者であり、患者(委任者)が医師(受任者)に診療という行為の提供を求める、という関係となります。

 そして、準委任契約の受任者(診療契約では医師)には、委任者(診療契約では患者)に委任された行為の結果につき報告する義務(=顛末報告義務)があるというのが通説です。他人に仕事を依頼した際、通常その結果について報告を求めるでしょうが、これを法定したものと考えれば理解しやすいでしょう。


2.顛末報告義務によりカルテの開示を求めうる場合

 ただし、顛末報告義務の実行は、必ずカルテの開示に依るべき、とされているわけではありません。その方法は、個別の事情に応じて適切なものが選択されるべき、とされており、カルテの開示から口頭での説明まで幅があります。

 そのため、一般に医療ミス(医療過誤)があったような場合や、既に患者と医師の関係が破壊されているような場合はカルテの開示まで認められる場合が多いでしょうし、まだ治療が継続しており、口頭でも充分に説明が可能であるような場合はカルテ開示は認められない可能性が高くなります。


3.本人以外からのカルテ開示

 また、個人情報保護法上の開示請求権者(開示の請求をできる者)は「本人」に限られていることから、例えば亡くなった家族のカルテの開示を個人情報保護法に基づいて行うことはできません。
 しかし、学説においては、患者の家族は本人と医療者(医師等)の診療契約の付随的義務として顛末報告義務に基づく説明を受ける権利を有するとの見解が存在し、厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」においても遺族への開示を原則として応ずべきとしていることから、顛末報告義務に基づいてカルテの開示を請求できる場合があります。

次回は「(3)証拠保全手続きによる開示」を扱います。
posted by KINO Ryosuke at 23:00| Comment(0) | 個人情報