2020年05月18日

カルテと開示請求 第2回 カルテ開示の法的構成(1)個人情報保護法等に基づく開示

 第1回ではカルテとその開示について概説しましたが、第2回からは法律上どのような根拠によりカルテの開示を求めることができるかについて詳しく解説します。
 今回は(1)個人情報保護法等に基づく開示、を扱います。


1.個人情報保護法に基づく開示請求の概要

 第1回でも述べたとおり、カルテは個人情報保護法2条6項の「個人データ」に、カルテを保有する医療機関は2条5項の「個人情報取扱事業者」に該当します。そして、個人情報取扱事業者は保有する個人データにつき、本人からの開示請求に応ずる義務を有します。

 そのため、個人情報保護法28条の規定に基づき、開示請求を行うことができます。ただし、開示請求に関して個人情報取扱事業者は手続きを定めることができ、手続きが定められている場合はその手続きに従う必要があります。

 例えば、「開示請求を行うにあたっては医療機関所定の様式に記入することにより行うこと」との手続きが定められていた場合、任意の様式による請求は拒み得るものと考えられます。
 しかし、手続きを定めるにあたっては「本人に過重な負担を課するものとならないよう配慮」する義務があるため、様式の配布を医療機関の窓口のみにて行い、遠隔地に居住する開示請求者に対し医療機関への来訪を求めるようなことは認められないといえましょう(個人情報保護法32条4項)。


2.開示の原則と開示請求を拒みうる場合

 個人情報保護法に基づく開示請求が行われた場合、個人情報取扱事業者(ここでは医療機関)は原則として応じる義務があります。
 
 医療機関が開示請求を拒否できるのは、個人情報保護法28条2項の
一 本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
二 当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
三 他の法令に違反することとなる場合
の1〜3号に該当する場合のみです。


3.ガイドライン・通達の規定

 また、個人情報保護法の運用に当たっては、法律の規定のみならずガイドラインや通達にも準拠することとなります。

 医療分野においては、個人情報保護委員会および厚生労働省により作成された「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱のためのガイダンス」や厚生労働省による通達である「診療情報の提供等に関する指針」「診療情報の提供等に関する指針について(周知)」が存在し、例えば、
・理由の照会が不適当であること(「ガイダンス」)
・立ち会いを必須とすることが不適当であること(「指針について」)
などが盛り込まれています。

 なお、厳密には、国の行政機関には行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(行政機関個人情報保護法)、独立行政法人等は独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(独立行政法人等個人情報保護法)が適用されます。民間分野に適用される個人情報保護法と、行政機関・独立行政法人等に適用される行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法には開示対象となる情報や開示の拒絶理由について若干の相違があるのですが、カルテ開示を求める上では結果に大きな差を生むことはないものと考えられます。

 次回は「(2)顛末報告義務に基づく開示」を取り扱います。


参考資料等

厚生労働省・個人情報保護委員会「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱のためのガイダンス」「『医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱のためのガイダンス』に関するQ&A(事例集)」
 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines/#iryokanren
厚生労働省「診療情報の提供に関する指針」
 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3403&dataType=1&pageNo=1
厚生労働省「診療情報の提供等に関する指針について(周知)」
 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3511&dataType=1&pageNo=1
posted by KINO Ryosuke at 00:16| Comment(0) | 個人情報

2020年05月13日

タウンプラスを送付した話

 行政書士事務所の運営で、現在進行形で苦慮しているのが営業です。

 わたし個人の性格として、最終的にある商品やサービスの購入・利用を決定するのは消費者・利用者本人であるという思いから、なかなか「営業」という営為自体にあまり積極的になることができず、躊躇しがちとなってしまいます(マーケティングの重要性自体は認識しているつもりなのですが…)。

 また、何分顔が広い方ではないので、自身の人脈に頼った営業には限界があり、畢竟何らかの形で広告を打つこととなります。

 そこで昨年、日本郵便のサービスであるタウンプラスを利用し広告の送付を行いました。

 タウンプラス自体は、現在マスクの配布に使用されたことから一躍知名度が上昇したためご存じの方も多いかもしれませんが、宛名ではなく地域を指定し、その地域のすべての住戸に郵便を送付できるサービスです。

 正直関心のない広告であると単に鬱陶しいというのは、わたし自身受け取った際の経験からよく理解はしていたため、心苦しい側面がないでもなかったのですが、たとえ少数であっても行政書士サービスを必要とされている方へ届けばと送付しました。

 差出通数は約900通、地域は事務所近隣の品川区の一部としました。


 しかし、送付後特に反響はありませんでした。

 反省点として、送付通数自体が少ない点、デザイン性に欠けていた点、具体的な情報が不足(例えば、直近の相続法改正について解説し広告としてではなくハンドブックとして保存していただけるような形態にする、といったような)していた点、など多々あるかとは思います。
 特に送付通数の絶対的な少なさは重要な要因かと思いますが、予算との兼ね合いもあり有効であると判明していてもなかなか直ちに対応することが難しい点ではあります。

 ただいずれにせよ、現在のところ具体的な反響はありませんが、地域の皆様の認知度が少しでも高まっていれば、と思っています。
posted by KINO Ryosuke at 23:48| Comment(0) | 事務所経営

2020年05月11日

カルテと開示請求 第1回 カルテの性質

本日より「カルテと開示請求」シリーズを連続投稿させていただきます。
同シリーズでは、カルテ開示(診療録開示)の概要や方法、留意点について解説してゆきたいと思います。

第1回は「カルテの性質」として、カルテ(診療録)の位置づけについて言及してまいります。

(1)カルテとは


 「カルテ」とは、一般に医師が診療に際して作成する診療録のことをいいます。
 また、医師の記載する診療録のほか、検査記録や手術記録、看護記録、処方箋等を含む患者の治療に関して作成された文書を総称して「診療記録」(または「診療記録等」)といいます。


(2)カルテの医療上の位置づけ


 以前ではカルテは医師の備忘録にすぎないとされ、また治療の経過や病状も「知らしむべからず」といった意識のもと患者へは知らせないといった認識が一般的であり、カルテは開示されない、さらには積極的に開示すべきでないとされることが一般的でした。

 しかしながら、現代では患者と専門職である医師は対等なパートナーシップのもと協働して治療にあたる存在との理念が普及してきたことから、少なくとも総論としては「カルテは患者と医師の共有資産である」との認識となっているようです。日本医師会においても、カルテ開示に関するガイドラインを定め、原則としてカルテは開示すべきものとしています(日本医師会 診療録の提供に関する指針:http://www.med.or.jp/doctor/rinri/i_rinri/000318.html)。


(3)カルテの法律上の位置づけ


@ 医師法上の地位
 医師法においては、医師の義務として、
 1)診療を行った際の診療録(=カルテ)への記載義務
 2)5年間の保管義務※
 が定められています。
 ※病院または診療所に勤務する医師のした診療にかかる診療録については、管理者が保管義務を負います。

A 個人情報保護法上の地位
 カルテは、個人情報保護法上の個人情報および個人データに、医療機関は個人情報取扱事業者に該当します。そして、個人情報取扱事業者は、本人の請求により個人情報を開示する義務を負いますので、本人にカルテを開示する義務があるといえます。
 個人情報保護法上の位置づけについては、次回以降の記事で詳しく解説します。

B 診療契約上の地位
 いわゆる医師による診療は、法的には「準委任契約である医療契約に基づく役務の提供」とされていますが、準委任契約の性質として委任者(医療契約の場合は患者)への顛末報告義務が生じます。
 そして、顛末報告義務の実施として、カルテ開示を行うべき場合があるとされています。ただし、顛末報告は診療の状況や患者と医師の関係性等に鑑み適切な方法が選択されるべきで、常にカルテ開示が要求されるものではない、というのが通説です。
 診療契約上の地位についても、次回以降の記事で詳しく解説します。


(4)結論


 医療上の観点からも、法律上の観点からも、カルテ(診療録)は原則として開示すべきといえます。
 次項以降、それぞれの論点について詳しく解説してゆきます。


参考文献


加藤良夫『実務医事法講義』民事法務研究会、2005
高橋譲編『医療訴訟の実務』商事法務、2013

次回→カルテと開示請求 第2回 カルテ開示の法的構成(1)個人情報保護法等に基づく開示
posted by KINO Ryosuke at 23:21| Comment(0) | 個人情報